矯正の基礎知識

 

矯正による歯の移動の組織学的反応

 

矯正の力が歯に加わると、歯の周りには押されている側(圧迫サイド)と引っ張られている側(牽引サイド)が生じます。

 

圧迫サイドにある骨が吸収して消失し、空間が生まれます。

その空いた空間に歯が移動します。歯が移動すると、今度は牽引サイドに空間が出来ます。その空間に新しい骨が出来て隙間を埋めます。

「 古い骨が溶けて歯が動いて、歯が動いた跡を新しい骨が埋める 」

という反応を繰り返して、 矯正治療により歯は動いていくのです。  

 

血流理論

 

矯正歯科治療における歯の移動は、血液の流れによって制御されていると考えられています。

歯に矯正力が加わると、歯は押されて、歯根膜が圧迫される領域では血流が減少します。 

 

一方、歯根膜が牽引される領域では血流が増加します。


ホワイトワイヤー矯正このように血流量が変化すると、歯の周囲の組織内の酸素分圧が先ず変化します。 

(圧迫サイドでは酸素分圧が低下し、牽引サイドでは酸素分圧が上昇します。)  

 

その他の代謝物質も数分から数時間の間にその代謝活動のレベルに変化が生じて行きます。

 

その結果として、矯正の力が加わった歯の周囲で様々な化学反応が起きて、細胞レベルで反応を引き起こして、歯が移動していくのです。

 

直接吸収

 

歯に加えられる矯正力が適切で弱い場合、4~6時間するとサイクリックAMPという細胞活性を変化させるメッセンジャーの活動が上昇して、歯の移動にかかわる反応が引き起こされるのです。  

 

36~72時間すると破骨細胞という特殊な細胞が出現して、その歯の周囲の骨を吸収していきます。 (それで直接吸収と言う)  

 

その結果、歯が動くスペースができるのです。 

この時、同時に造骨細胞が働いて、歯が動いて移動した後のスペースを埋めるように新しい骨を作っていきます。

 

このプロセスは連続的に起きるので、歯列矯正による歯の移動はとてもスムーズに起きてきます。

 

穿下性吸収

 

歯に加えられる矯正力が過度で強い場合、歯は圧迫され過ぎて周囲の血管が押し潰されてしまい、血液の供給が遮断されてしまいます。  

 

やがてその部分の細胞は無菌的に壊死して、虚血性のガラス化領域という細胞が死んでしまった領域が拡がります。  

 

数日後に、周りから細胞が侵入して、壊死した組織の近くの下の方から骨を吸収して行きます。 (それで穿下性吸収と言う)  

 

壊死した組織と骨が一緒に吸収されて、初めて歯が動きます。

 

このプロセスでは、歯が動かない時期と歯が動く時期とが交互に起きるため、歯列矯正による歯の移動は遅延します。

 

矯正力が適切であるほど、停滞期は短くなります。

 

理論的には、最初の直接吸収のみで矯正による歯の移動が起きることが望ましいということは、言うまでもありません。  

 

歯の移動に適した最適な矯正力は理論的にはありえますが、実際の矯正治療の場面では、歯根の大きさ、形状、歯の傾斜角、骨との関係、骨質、動かし方などなど様々に条件が異なります。

 

例え1本の歯でも、その歯の場所場所や時期により変化します。

 

そのため、実際の歯列矯正治療では直接吸収と穿下性吸収の両方が同時期に起きていると考えられます。

 

歯が移動した後は、周囲の歯根膜や歯槽骨で修復が行われます。  

 

血液の流れによる脈動の研究から、最初に矯正力が加えられて3週間すると、その力により生じた反応に対する修復が済み、次の矯正力を受け入れる準備が整うことが分かっています。

 

 

最適矯正力

 

実験的には、歯に10gの 矯正力が加わっただけで、歯が移動することがわかっています。

 

最適矯正力には様々な考え方がありますが、一つの有力な考え方として、歯根の表面積1平方センチメートル当り150g というものがあります。 

 

この基準を適用すると、大臼歯で240g前後、小臼歯で110g前後、犬歯で150g前後、切歯(前歯)で50~80g前後 になると考えられます。

 

実際の臨床の現場では、歯の大きさは様々ですので当然それを支える歯根の大きさも様々です。

 

ということは予想される最適矯正力も様々・・・。  また、歯の動かし方により必要とされる矯正力は同じ歯であっても異なります。

 

ただ言える事は、 矯正力を強くすれば歯がたくさん動くという単純なものではない!ということです。  

 

適切な矯正力を越す力を加えても、歯はあまり動きません。  

 

上で説明したような穿下性吸収を起こしてしまい、動くのに時間がかかるようになります。 いかにして、直接性吸収を起こさせながら歯を矯正移動させるかが大事なのです。

 

矯正治療における歯の移動と痛み

 

矯正力を加えた後、数時間すると歯根膜をはじめとした歯の周囲組織に虚血性のガラス化領域が拡がりだします。  

 

その結果、歯の神経(歯髄)に一過性の炎症反応が起きます。

この炎症反応は2~4日ほど続き、やがて消失します。  

 

これが矯正歯科治療に伴う痛みの原因であり、その実際と見事に当てはまっています。  

他の条件が同じであるならば、痛みの大きさと矯正力との間には相関関係があります。

 

矯正力を加えた直後から痛みが起きるのは、矯正力が強すぎて歯根膜が押しつぶされて損傷している為です。  

 

歯の移動にとって、害になっても、益になることはありません。  

この時には、矯正力を弱くすることが必要になります。

 

ただし、痛みに対する感受性には個人差が大きく関係しています。

痛みに対する対策として、矯正装置を活性化して8時間ほどの間に繰り返し何かを軽く噛むことが有効とされています。  

繰り返し噛むことで、一時的に圧力を緩和して、虚血性のガラス化領域に血流を回復させ、その拡がりを押さえてやるものと考えられています。

 

 

矯正治療後に見られる歯並びの変化

 

矯正後の歯周組織の変化

 

矯正歯科治療が終わった時点で、歯を支持する組織は、歯根膜は拡大し、歯肉繊維の網目は崩壊し、歯槽骨は吸収が見られ、それらが再生をしている途中にあたります。 

 

矯正力により直前まで歯が移動していたわけですから、このように不安定な状態であることは当然です。

矯正装置を外した後、これらの歯周組織が再び安定するまでには、時間が必要です。

 

通常、3~4ヶ月間で歯根膜及び歯槽骨の再組織化リモデリングが終わります。

 

その後、4~6ヶ月間で歯肉繊維の網目状構造の再組織化リモデリングも終わります。

 

しかし、歯槽骨より上で歯と歯を結んでいる歯肉繊維(弾性歯槽頂繊維)のリモデリングは非常に遅く、1年経過しても歯を移動させるだけの歪みが残っていることが分かっています。

矯正後の骨格の成長変化

 

矯正治療の終了後に骨格性の異常が再発することがあります。 

 

これは、成長期間を通じて本来の成長パターンは持続するためですが、特に前後方向と垂直方向の成長による変化が問題となります。

 

この前後・垂直方向の成長は成人のレベルに達するまで続き、上下顎骨の成長の差により、顎骨の位置が変化して再発を示すものです。

 

矯正後の口腔周囲軟組織の変化

 

歯の位置は、歯並びの内側と外側からの圧力の平衡点でバランスを保ち、安定すると考えられています。  

歯並びの内側の圧力は舌により生じます。  

歯並びの外側の圧力は口唇&頬により生じます。

矯正治療の終了後、、ゆっくりと時間をかけて、歯並び周囲の筋機能が適応するものと考えられます。


また、成人において前歯を引っ込めた結果として、舌房が狭くなることが予想されます。 

しかし、舌は柔軟性が高く、前歯が引っ込んで前後的に狭くなった分を横方向へ拡がることにより代償して、矯正治療後の環境に適応しているものと考えられています。  

 

舌突出などの異常習癖や、成長期の鼻呼吸障害は再発の大きな原因となることがありますので要注意です。